中華料理店について4600万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第1回目の今回は、有楽町近辺の中華料理店の立ち退きについて4600万円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成24年4月17日)をご紹介します。

この事例では、立ち退き料の算定に関しては、概ね、鑑定人の鑑定結果に基づいて金額を算出しており、立ち退き料の算定における鑑定の重要性を示すものとして参考になります。

また、細かな点ではありますが、裁判所は、賃借人が店舗で輸入販売していた酒類に関して、店舗の移転により輸入業者の営業所所在地の変更があったことを示すシールの印刷・貼付費用を認定しており、この点も参考になります。

東京地方裁判所平成24年4月17日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都中央区(有楽町駅周辺)
  • 用途:中華料理店
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の建替え(36階建ビルの建築を計画)
  • 賃料等: 49万2500円(本件貸室1及び2の合計)
  • 当事者等
    X:原告(賃貸人)。大手不動産会社。平成19年に本件建物を前所有者から取得し、賃貸人の地位を承継。Y:被告(賃借人)。本件貸室1及び2にて中華料理店を経営している株式会社。

裁判所の判断-正当事由について

賃貸人Xの事情

  • 本件建物は建築後50年以上が経過し、全体的に経年劣化が進行している。
  • 本件建物が存在する地域は、都市再生緊急整備地域に指定されている。
  • Xは、本件敷地を含む地区の開発計画を検討し、本件敷地に高層ビルの建築を予定しており、この計画は相当程度具体化している(※ Y以外の本件建物の賃借人は全て退去済みである)。
  • 東京都がXらから提出された都市再生特別地区の都市計画提案を受理している。

⇒これら事実からすると、今後相当額の費用をかけて本件建物の存続を図るのではなく、本件建物を高層ビルに建て替えて本件敷地の有効利用を図るというXの計画には一定の合理性、相当性を認めることができる。
⇒Xには、建物使用の必要性があるといえる。

賃借人Yの事情

  • Yは、平成13年から本件貸室1を、平成15年から本件貸室2を賃借し、中華料理店を経営しているのであって、本件店舗の経営を継続したいという被告の要望も合理性、相当性を有している(※ 年間売上は約5200万円~5400万円である)。
  • 本件店舗の移転に伴って顧客喪失などの不利益を被るおそれがあることなどの事情に照らすと、本件貸室1及び2の明渡しによって被告が被る経済的損失は小さくない。

結論

⇒Xの建物使用の必要性がYの必要性よりも高いとはいい切れない。
⇒しかし、本件建物は建築後50年以上が経過しその老朽化等に照らすと現在最有効使用の状況にないのであって、有効利用を図るためには本件建物を取り壊して新築するのが相当である。
⇒上記の事情にかんがみると、Xが、本件貸室1及び2の明渡しによりYの被る経済的損失をてん補することができる場合には、Ⅹの解約申入れは正当事由を具備すると解するのが相当である。

裁判所の判断-立ち退き料について

⇒C鑑定人が実施した鑑定結果を引用。

本件貸室1の立ち退き料相当額:4276万6000円
(借家権価格:3533万2000円、営業補償額:743万4000円)
本件貸室2の立ち退き料相当額:185万5000円
合計:4462万1000円

本件鑑定評価書の合理性を疑わせる事情は認められないのであるから、本件の立退料相当額は4462万1000円であるとの鑑定の結果を採用する。
⇒この金額に、(鑑定では考慮されていない)Yが輸入して本件店舗にて販売している酒類に貼付する、輸入業者の営業所所在地の変更があったことを示すシールの印刷、貼付費用90万3000円を加え、立ち退きをめぐる交渉経緯などの諸般の事情を考慮して、正当事由を具備するための立ち退き料として4600万円を要すると認める。

⇒なお、Yは、証拠に基づいて、本件における立退料としては2億6140万円が相当である旨を主張する。
⇒しかし、上記の証拠は、増分価値の算出において、隣接地の評価にあたり所有者(又は所有権移転請求権仮登記権者)ごとに12画地に分けてそれぞれの個別的要因を考慮したり、本件店舗の営業利益の算出過程において修正を加えたり、住所変更に伴うシール印刷・貼付け費用の算出を調査期間の制約から陳述書のみによるなど種々の不合理な点があるから採用することはできない。

まとめ

このように、本事例では、鑑定人の鑑定結果に基づく金額を基礎として、鑑定人が考慮しなかった酒類に貼付するシールの印刷・貼付費用+αの金額を加算して、立ち退き料を算定しました。

本文中では割愛しましたが、この裁判では、原告・被告双方から、鑑定人の鑑定結果に対して、詳細な指摘・反論がなされていました。
しかしながら、裁判所は、被告Yから主張されたシールの印刷・貼付費用の点のみを肯定し、それ以外の原告・被告からの指摘・反論は全て排斥しました。

こうした裁判所の判断は、立ち退き料の金額に関して、裁判所が選任した鑑定人が鑑定を実施した場合に、鑑定結果が重視され、また、鑑定結果を覆すことが難しいということを示しているものといえます。

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