ドラッグストアの立ち退きについて1000万円の立ち退き料を認めた裁判例

はじめに

立ち退きコラム第8回目の今回は、東京都内の東急池上線沿線にあるドラッグストアの立ち退きについて、1000万円の立ち退き料を認めた裁判例(東京地方裁判所平成27年7月28日判決)をご紹介します。

この事例では、賃貸人から建物の老朽化が主張されていますが、老朽化を理由とする建て替えではなく、既存建物の存続を前提とする大規模な耐震補強工事の実施が正当事由として主張されている点が特徴です。

裁判所は、賃借人との賃貸借契約を維持した上で耐震補強工事をするべきか、賃貸借契約を解約して工事を実施するべきか、という点について、賃貸人の経済的見地から正当事由を判断しています。

また、本事例は、賃借人が、東京都内に150店舗を展開する大手の薬局経営会社ですが、裁判所は、他の店舗の存在を考慮した上で、賃借人の建物使用の必要性を認めています

東京地方裁判所平成27年7月28日判決

事案の概要

  • 物件所在地:東京都内(東急池上線沿線)
  • 用途:ドラッグストア
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の老朽化による建物の大規模修繕
  • 賃料等: 平成9年9月~   月額100万円

       平成21年11月~ 月額 88万円

  • 当事者等

X:原告(賃貸人、個人)。平成15年に本件建物を取得。

Y:被告(賃借人、法人)。薬局を多数経営している株式会社。東京都内に150店舗の店舗を展開。本件店舗の付近にも2店舗を運営している。

裁判所の判断-正当事由について

(賃貸人Xの事情)

本件建物の築年数が古く、耐震性能が不十分であること、本件賃貸借契約に賃料が本件建物の築年数を前提として近隣の賃料と比べた場合に低額であることからすると、本件建物について、本件賃貸借契約を解約した上で大規模な耐震補強工事を行い、本件建物の有効活用を図りたいというXの要望には一応の合理性、相当性があるというべきである。

(賃借人Yの事情)

本件建物において、営業を継続し、一定の利益を上げてきたYにとっては、本件建物における営業が軌道に乗っている中、本件建物と同等の代替物件の確保は容易ではなく、移転に伴う顧客喪失のおそれも相応にあること等を考えると、本件建物の明渡しによって、Yが被る経済的損失については、Yが多数の店舗を展開して営業していることを考慮しても、なお、その損失が小さいとは到底いえない

(結論)

本件建物の使用の必要性については、Yの方が勝っているというべきである。

⇒Xの更新拒絶は、それのみでは正当事由を具備しているとは認めることができない。

しかしながら、

本件建物は、東急池上線の線路沿いに位置し、また、駅近くの商店街に位置しているのであり、多数の店舗が密集し、多数の通行人が往来する場所であるのであって、その安全性を確保することが望ましいことはいうまでもない。

⇒また、本件建物の位置関係から、Yが営業を継続しながらの耐震補強工事が不可能であること、Yが耐震補強工事後の賃料についても従前の契約を前提とする態度を示していることからすると、Yに対する営業補償をしつつ、相当な費用をかけて本件賃貸借契約を維持するよりも、本件賃貸借契約を解約して、耐震補強工事を行い近隣の賃料に近い賃料を得る形での使用収益を図りたいとのXの要望については経済的見地からは肯首できる。

⇒上記の認定事実を総合すると、Yが本件建物の明渡しにより被る不利益をある程度填補する場合には、Xの更新拒絶は正当事由を備えるに至ると解するのが相当である。

裁判所の判断-立ち退き料について

X:立ち退き料100万円の申出。

Y:立ち退き料として、6738万9722円を主張(工作物現価補償、動産移転補償、仮店舗補償、移転雑費補償、営業休止補償、借家権消滅の補償の合計額)

・本件は相当額の立退料の支払により正当事由が具備され得るものであるところ、口頭弁論終結時においてXによる更新拒絶から既に2年半以上経過しており、その間、Yが近隣の賃料に比して低額な賃料による利益を享受しており、その額は相当多額となっている

・Xが本件建物を賃借し始めた平成9年においても、本件建物は既に建築後45年程度が経過しており、本件建物が木造であることを考慮すると、本件賃貸借契約締結当初から、老朽化等による賃貸人からの解約申入れがあり得ることについては予見できる状況であった。

・Yは既に本件建物において18年間営業を継続しており、X自身も本件建物を取得してから賃料について増額を請求しないばかりか、平成21年からは減額に応じる等賃借人の要望に応じて、これまで一定程度の不利益を甘受していることが認められる。

⇒以上のとおり、本件賃貸借契約の解約に伴うYの経済的損失が多大であること、他方、Yとしても本件賃貸借契約によって相応の利益を上げていることといった上記の事情を総合考慮すると、Xが正当事由を具備するための立退料としては、1000万円の提供を要するものと認めるのが相当である。

まとめ

このように、本事例では、裁判所は、1000万円の立ち退き料との引き換えに建物明渡しを命じました。

立ち退き料の算定については、具体的な算定根拠は示していませんが、賃借人が主張した立ち退き料の金額(約6700万円)から大幅に減額しているのは、賃借人が、長年にわたり、本件建物を周辺地域の賃料相場よりも安い賃料で使用しており、いわゆる「借り得」が生じている点を重視した結果であると考えられます。

 

 

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