占いの店舗について6850万円の立ち退き料を認めた裁判例
はじめに
立ち退きコラム第14回目の今回は、占いの店舗について6850万円の立ち退き料を認めた裁判例をご紹介します。
この裁判例は、立ち退きコラム第11回でご紹介した、スポーツ用品店について4憶2800万円の立ち退き料を認めた裁判例の店舗と同じビルの別の区画の立ち退きが問題となった事例です。
スポーツ用品店の事例と同じく、賃貸人側から建物の老朽化が主張されていますが、裁判所は耐震性能については、賃貸人側に厳しく判断しています。
また、賃貸人側から、賃貸借契約終了後から明け渡しまでの間の賃料倍額損害金の請求がなされていますが、裁判所は、賃料倍額損害金条項の適用を否定しており、この点もスポーツ用品店の事例と同様です。
東京地方裁判所平成23年2月2日判決
事案の概要
- 物件所在地:東京都渋谷区神宮前(JR原宿駅付近、竹下通り沿い)
- 用途:占いの店舗
- 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の老朽化による建て替え
- 賃料等: 月額50万円
- 当事者等
X:原告(賃貸人、法人)。資産の流動化に関する法律に基づく、資産流動化計画に従った特定資産の譲受け並びにその管理及び処分に係る業務を目的とする特定目的会社。平成19年7月に本件ビルの所有権を取得。
Y:被告(賃借人、個人)。本件ビルの地下1階の店舗(本件店舗)を昭和61年10月から賃借し、「占い〇〇」の名称で、占いの店舗を経営している。
裁判所の判断-正当事由、立ち退き料について
(賃貸人Xの事情)
・Xは、X実施の耐震診断結果(甲4)を根拠に、本件ビルの耐震性能には問題があり、その改修工事には多額の費用を要する旨を主張し、Yは、Y提出の耐震診断業務報告書(乙24)を根拠に、本件ビルの耐震性能には問題がない旨を主張する。
⇒しかし、本件ビルの耐震性判断に当たって、甲4において採用されている三次診断と乙24において採用されている二次診断のいずれがより適切かは明らかでない。
⇒そして、弁論の全趣旨によれば、甲4は、その基礎となるデータに誤入力があるものと認められ、これを修正すると、Xが耐震性能の問題を指摘する地上1階Y方向の耐震性評価指数は0.70、性能ランクはB1となり、甲4を前提としても、耐震性能は比較的高く、補強工事は推奨されるものの必須ではないとされる。
⇒本件ビルの耐震性能を根拠に本件解約申入れに正当の事由があると認めることはできない。
・また、Xは、本件ビルの排煙設備の瑕疵を主張し、本件ビルの排煙窓や防火扉が封鎖されたり動作が阻害されている箇所が存在することが認められる。
⇒しかし、その多くは各賃借人が設置するなどした設備や商品によるものであり、むしろ各賃借人においてこれを除去すべきものと認められるから、本件ビルの排煙設備の瑕疵を根拠に本件解約申入れに正当の事由があると認めることはできない。
(賃借人Yの事情)
本件物件がYの営業の主要な拠点であり、その立地条件が営業上の好条件となっているものとは認められる。
⇒しかし、Yが主張するように、本件店舗が他所(例えば本件ビルの近隣の物件)に移転することによって多額の赤字が生じて廃業を余儀なくされることが確実とは認められず、本件物件の明渡しによるYの損害は金銭的に補償することが可能なものというべきである。
(結論)
以上に加え、本件ビルが築後約32年を経過しており、老朽化が進んでいるものと認められ、その補修等には相応の費用を要すること、本件ビルの他の賃借人からの明渡しが相当程度進行していることのほか、本件賃貸借契約の期間が1年と定められているところ、契約更新が繰り返された結果、Yが本件物件を賃借している期間が約24年に及んでいることなどを考慮すると、Xが適正な立退料の支払をすることによって正当の事由が補完され、本件解約申入れについて正当の事由があるものと認められる。
⇒鑑定の結果によれば、上記適正な立退料は6850万円であると認められる。
裁判所の判断-賃料倍額相当損害金について
Xは、賃料倍額相当損害金(本件損害金条項)の条項に基づき、本件賃貸借契約終了の日の翌日である平成21年8月1日から本件物件の明渡済みまで賃料の倍額に相当する損害金の支払請求権が生じると主張する。
⇒しかし、本件損害金条項を賃貸人からの解約申入れや更新拒絶による賃貸借契約の終了の場合に適用する合理的理由がない(これらにより賃貸借契約が終了するか否かは当該解約申入れ等に正当の事由があるか否かによるが、当該解約申入れ等の時点で賃借人に正当の事由の有無の判断を求めるのは、賃借人に困難を強いることとなる。)。
⇒本件損害金条項は、合意解除や賃借人の債務不履行による解除など、賃借人に明渡しの義務が存在することが明確な場合に限り適用される趣旨と解するのが相当である。
まとめ
このように、裁判所は、立ち退き料の補完による正当事由の充足を認め、鑑定人の鑑定結果に従い、立ち退き料を算定しました。
本事例では、賃貸人が耐震性能の問題について、耐震診断結果を証拠として提出しているのに対して、賃借人が、(1)自らも耐震性能診断報告書を提出し、また、(2)賃貸人が提出した耐震診断結果について基礎データの誤入力を指摘することで、賃貸人が提出した診断結果の信用性を減殺しています。
その結果、裁判所は、(建物の一定の老朽化を認めつつも)賃貸人が主張する耐震性能について、それのみでは正当事由を構成しないと判断しています。
賃借人側としては、本件における賃借人の立証活動は、賃貸人の立証を崩すという意味で非常に参考になると思われます。