診療所・クリニックの立ち退き

診療所・クリニックの立ち退きのポイント

診療所・クリニックの立ち退きについては、まず、診療所等の営業と場所の結びつきが強いという点がポイントとして挙げられます。
一般的な医院やクリニックの場合、通常、患者は、診療所等が存在する地域の周辺に在住・在勤している者が多いため、診療等が移転することにより、営業に大きな影響を受けることになります。
また、移転をするにしても、診療項目によっては、移転先に競合する診療所が存在する場合もあり、移転が難しい場合もあります。
こうした事情は、賃借人側の建物使用の必要性を基礎づける事情となります。

また、診療所の場合、通常、開業時に多額の設備投資をしていることから、立ち退き料の算定に際しては、診療所内にある診療機器等の移設費用や、移転先の内装造作の設置費用が立ち退き料を増額させる要因になる傾向があります。

診療所・クリニックの立ち退きに関する裁判例

1.歯科医院の立ち退きについて2200万円の立ち退き料を認めた裁判例

<東京地方裁判所平成23年2月22日判決>

基本情報

  • 物件所在地:東京都港区
  • 用途:歯科医院
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:建物の取り壊し、新建物の建築
  • 賃料等: 46万2000円
  • 立ち退き料の認定金額:2200万円

裁判所の判断-正当事由の有無

賃貸人側の事情

本件建物は、建築後30年が経過している。
賃貸人は、平成17年に本件建物を購入したが、前所有者が水回り等の管理を十分に行っていなかったことを知り、建物の維持に不安を感じて、平成19年に不動産業者に本件建物を売却した。

⇒しかし、代金が決済されず、売買契約は破棄された。
⇒上記の売却に際して、3テナント以外の全てのテナントが退去しており、賃貸人が家賃収入を確保することが難しい。
⇒平成19年末以降、不動産事情が悪化したため、賃貸人は、建物の維持が困難であると考え、賃借人以外の2テナントとは立ち退きの合意済。

賃借人側の事情

⇒賃借人は、本件貸室において平成10年5月以降、歯科医院を経営。
売上も安定しており、患者の約85%が周辺の住民や周辺の会社に勤務する者である。
⇒また、医療機器の移設も容易ではない。

結論

⇒本件建物の築年数、テナントの状況、不動産事情の厳しさ、周辺地域の状況からすると、賃貸人としては、周辺地域の状況に照らした有効な活用という観点から、建て替えを行う一応の必要性がある。
⇒一方で、賃借人が、本件貸室を使用して歯科医院を営む必要性も認められる。
⇒もっとも、賃借人が歯科医院を代替貸室において営むことも不可能ではない。
本件貸室からの退去及び移転に伴う損失に対する相応の保証があれば、賃借人の使用の必要性が、賃貸人の使用の必要性を上回るとは言い難い。

⇒立ち退き料の支払いを条件に正当事由を肯定

裁判所の判断-立ち退き料の金額

⇒借家権価格の鑑定結果を引用。

ア 本件貸室の借家権割合による借家権試算価格:2277万円
イ 実際に必要と見込まれる立退料相当額:2162万4000円

内訳

(ア)移転先を賃借するための新旧家賃の差額2年分:144万円
(イ)保証金の差額:80万円
(ウ)仲介手数料:50万円
(エ)引越し費用:220万円
(オ)営業補償
  a 内装造作費用(移転に伴う診療代水回り部品の交換費用も考慮):1000万円
  b 休業補償(補償期間1ヶ月):258万円
  c 得意先喪失補償:410万4000円

鑑定評価額は、立ち退きを求められる借家人の立場に配慮し、イを標準として、アを比較考量し、2200万円と決定。
鑑定の手法及び過程に不合理な点はない。

⇒立ち退き料2200万円の支払と引き換えに、賃貸人の立ち退き請求の認容。

2.歯科医院の立ち退きについて3760万円の立ち退き料を認めた裁判例

<東京地方裁判所平成26年10月8日判決>

基本情報

  • 物件所在地:東京都新宿区
  • 用途:歯科医院
  • 賃貸人が立ち退きを求めた理由:再開発・老朽化を理由とする立替え
  • 賃料等: 賃料54万6672円、共益費8万6509円
  • 立ち退き料の認定金額:3760万円
  • 備考:本件においては、解約申し入れ当時、賃借人自身は札幌市にて歯科医院を経営しており、本件建物は、賃借人の元妻が、賃借人から独立して歯科医院として使用しているという事情がある。

裁判所の判断-正当事由の有無

(※本件は、正当事由の具備による解約申し入れの他、無断転貸解除が主張され、その点についても判断がなされている(解除の効果は否定)が、本稿では割愛する。)

賃貸人側の事情

⇒本件ビルは、A駅西口に近接する交通至便の場所にあり、その敷地は特定都市再生緊急整備地域内にある。
⇒賃貸人は、本件建物を取り壊した後、都市再生特別地区に係る都市計画の特例を利用して、新たに賃貸人の店舗が入るビルを建築することを計画している。
⇒また、本件建物の賃貸区画の空室率は90%を超えているのに対し、本件建物の本件ビルの総床面積に占める割合は0.28%にすぎない。
本件ビルの存する地域が公共的観点から土地の有効活用が望まれる地域であることを踏まえると、賃貸人には本件ビルを取り壊し、新たなビルを建築するために本件建物を自ら使用する必要性が認められる。

賃借人側の事情

⇒本件賃貸借契約の賃借人は、札幌において歯科医院を開業しており、賃借人自身は、本件建物において賃借人の元妻が開業している歯科医院から何ら収入を得ているわけではない。
⇒しかし、賃借人の元妻は、平成16年5月以降は、自ら本件建物において歯科医院を経営しており、その歯科医院からの収入が、賃借人の元妻の所得の大半を占めているから、同人には、その生計を維持するため、本件建物を自ら使用する必要性がある。
⇒賃借人の元妻は、承諾を得た適法な転借人ではなく、もともとは占有補助者に過ぎないが、本件建物の管理会社の担当者は、賃借人の元妻が本件建物で歯科医院を営むことを事実上了承していたという経緯がある。
正当事由の有無の判断に当たっては、元妻が本件建物を必要とする事情は、賃借人側の自己使用の一要素として考慮するのが相当である。

結論

⇒各事情を総合考慮すると、賃貸人による解約には、立退料の提供なしに解約の効力を認めるほどの正当事由は認められないが、相当な金額の立ち退き料の提供があれば、正当事由が補完される。

裁判所の判断-立ち退き料の金額

⇒鑑定結果を引用。
借家権割合法による価格:3500万円
移転補償額による価格 :3720万円

⇒鑑定においては、移転補償額による価格(3720万円)を借家権価格とするのが相当と判断しており、基本的な考え方自体は妥当。
⇒しかし、上記の算定過程の中で、動産の移転に関する費用が200万円と見積もられている点は根拠が示されていない。
⇒証拠と元妻の供述によれば、歯科医院を閉鎖し、新たな場所で歯科医院を開設する場合の診療機器等の購入費用は4000万円と認められる。
⇒移転補償額を基準にして借家権価格を算定する場合、3720万円に3800万円(=4000万円-200万円)を加算した7520万円と見積もるのが相当である。
本件における立退料は、あくまでも賃貸人の本件解約について一定程度は認められる正当事由を補完する性質のものである。そのため、7520万円全額を賃貸人が支払うべき立退料として認めるべきではない。
⇒本件における賃貸人の正当事由を補完する立退料としては、7520万円の50%である3760万円が相当である。

⇒立ち退き料3760万円の支払と引き換えに、賃貸人の立ち退き請求を認容。

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