立ち退き料について
「立ち退き料」とは?
立ち退き料とは、賃貸人による更新拒絶等の「正当事由」の有無を検討する際に、賃貸人側の正当事由を補強する、財産上の給付のことをいいます。
一般的には、一時金として金銭が支払われることが多いですが、事案によっては、代替物件の提供や、賃貸物件に付属する動産の譲渡の場合もあります。
賃貸人側の正当事由が、一定の割合までは認められるが完全ではない場合において、正当事由を補強し、立ち退きを肯定する要素として考えられています。
賃借人の側からすると、賃貸人の正当事由が不完全な場合に、自己に生じる経済的損失を軽減するという役割があります。
裁判例において、立ち退き料の取り扱いについては、次の通りのルールがあります。
第1に、賃貸人側が主張する立ち退きを求める理由が、それのみで正当事由を満たす場合には、立ち退き料は発生しないか、発生するとしても低額になります。
第2に、立ち退き料は、あくまで正当事由の補強要素であるため、賃貸人が立ち退きを求める必要性が正当事由に該当しないか、必要性の程度が低い場合には、高額の立ち退き料を支払ったとしても、正当事由は否定されることになります。
第3に、立ち退き料は正当事由の補強要素に過ぎないため、必ずしも、賃借人に生じる全ての損失を補償する必要は無いとされています。
立ち退き料に「相場」はない
立ち退き料に関して、テナント事業者の方から、「相場どおりの立ち退き料をもらえるのであれば立ち退きに応じようと思っているので、相場を教えてほしい。」と質問をされることがあります。
しかし、立ち退き料には、「相場」はありません。
すなわち、上で説明したように、立ち退き料は、正当事由の判断において賃貸人側の事情が足りない場合に、プラスアルファの要素として考慮されることになります。
そのため、立ち退き料の支払いが必要であるかは、個々の事案ごとに両者の全事情を考慮しなければ判断できないのです。
また、立ち退き料の支払いが必要な場合でも、立ち退き料の金額は、賃貸人・賃借人の建物使用の必要性の強弱を考慮して決定されるため、立ち退き料のみを取り出して論じることはできず、一刀両断に立ち退き料の金額を決めることはできません。
また、立ち退き料の算定方法についても、決まった方法があるわけではなく、裁判例によって異なる方法を採用しています。
こうした理由から、立ち退き料の「相場」は存在しないのです。